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犬の膝蓋骨脱臼

膝蓋骨脱臼とは、膝のお皿が本来あるべきところからずれてしまうことで、膝関節がうまく伸ばせず体重がかけられなくなり、歩き方に異常が出る病気です。5頭に1頭のワンちゃんに生じるとも言われ、発生頻度の非常に高い病気です(ネコちゃんにも発生します)。3歳頃までにみつかることが多く、成長に伴って脱臼の程度が悪化することもあります。自然に改善する疾患ではなく、根本的な治療は外科手術となります。膝蓋骨脱臼症例では後ろ足の筋肉や骨、膝周囲組織などの異常により膝蓋骨が異常な力で内側(あるいは外側)に引っ張られています。手術でこれらのバランスを調整し、脱臼を整復します。術後は膝関節が正しく伸ばせるようになり、しっかりと体重をかけられる足になります。

膝蓋骨脱臼とは

膝のお皿(膝蓋骨)が、太ももの骨(大腿骨)にあるくぼみ(大腿骨滑車)からずれてしまう疾患です。膝蓋骨は英語で(patella パテラ)と呼ぶため、膝蓋骨脱臼(patellar luxation)は“パテラ”と略して呼ばれることもあります。膝蓋骨の上側は、太ももの前側にある大きな筋肉(大腿四頭筋)に繋がっています。膝蓋骨の下側は、膝蓋靭帯という太い靭帯で、すねの骨(脛骨)に繋がっています。大腿四頭筋が引っ張る力は、膝蓋骨と膝蓋靭帯を介して脛骨に伝わり、膝を伸ばす力に変換されます。膝蓋骨が脱臼すると、この力の変換が正常になされないため、大腿四頭筋が引っ張っても膝関節が伸びません。そのため、後ろ足をあげたり、膝が曲がったままとなったりといった症状がみられます。片側のみでみられることもありますが、両側の後ろ足に生じることも多い疾患です。
膝蓋骨が内側にずれることを“膝蓋骨内方脱臼”、外側にずれることを“膝蓋骨外方脱臼”と呼びます。内方脱臼の割合が圧倒的に高く、8割から9割ほどを占めます。中には内側にも外側にも脱臼する、“膝蓋骨両方向性脱臼”の症例もみられます。
トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、ヨークシャー・テリア、柴などの小型犬での発生が特に多いですが、ラブラドール・レトリーバー、ブルドッグなどの中大型犬や、ミックス犬でもよく発生します。

膝蓋骨脱臼の原因と対策

残念ながら、膝蓋骨脱臼のはっきりとした原因は明らかとなっていません。単純な外傷が原因となっていることは少なく、多くの症例ではおそらく遺伝的な素因が関わっているだろうと考えられてはいますが、原因遺伝子はまだ見つかっていません。遺伝的な素因と、出生後の環境要因とが複合的に関係しているだろうという意見が多いです。

また、成長期(1歳頃まで)は特に脱臼の程度が進行しやすい時期であることが知られています。成長期に重度の脱臼がある場合、骨や筋肉の変形が進み、歩けなくなったり、より高度な手術が必要となる可能性があります。早期に発見し、治療が必要な場合は早めに治療をすることが望ましいです。脱臼の程度や症状によっては経過観察をする場合もありますが、若いワンちゃんでは定期的なチェックを受け、悪化がないか注意する必要があります。

悪化を防ぐためには、滑る床を避ける/適正体重を維持する、などの対策が重要です。しかし、環境の整備だけで膝の安定性が高まることはなく、あくまで現状の維持・悪化の予防が目的となります。今のところ脱臼の整復や症状の改善に有効な方法は、手術による整復のみとなります。

膝蓋骨脱臼の症状

膝蓋骨脱臼でみられる症状は様々で、ほぼ正常に見える歩き方の場合もあれば、たまに後ろ足をあげる/ずっと後ろ足をあげている/後ろ足に体重をかけるとガクッと膝が崩れる/常に膝を曲げたまま歩く/後ろ足をストレッチのようにうしろに伸ばす(自分で脱臼を直す動作です)/後ろ足がO脚やX脚のように見える、などの症状がみられます。症状のタイプも、症状の出る頻度も、ワンちゃんによって様々です。明らかな痛みを出すことは少ないですが、膝蓋骨を支えている周囲組織が損傷した際は、一時的に痛みを出すこともあります。特に若いワンちゃんでは、症状が悪化することも少なくありません。また、両側の足に膝蓋骨脱臼があるワンちゃんでも、症状は片足だけにみられる場合もあります。そのため、片足だけの症状であっても、必ず両足の状態を確認する必要があります。

4つのグレード

膝蓋骨脱臼は、触診により4つのグレードに分類されます。

グレード1:手で押すと膝蓋骨を脱臼させられるが、手を離すと正しい位置に戻る。
グレード2:膝の曲げ伸ばしなどで自然に脱臼と整復が繰り返し起こる。
グレード3:膝蓋骨は常に脱臼している。手で押すと正しい位置に戻すことができるが、手を離すとまた脱臼する。
グレード4:膝蓋骨は常に脱臼しており、手で押しても正しい位置には戻らない。

この評価には主観が含まれ、またワンちゃんの緊張の程度などによっても脱臼のしやすさが変わり得ることから、獣医師によって、また評価する日によって、グレードが異なることがあります。 グレードが高くなるほど重度の脱臼とされ、歩き方の異常がみられることも多くなります。 グレード2では、日常生活でも脱臼と整復が繰り返し起こることで、スキップのような歩き方となることがあります。 両側の膝にグレード3や4の膝蓋骨脱臼が生じている場合は、両方の膝が曲がり、しゃがんだ姿勢のままで歩くことがあります。 特にグレード4では、骨や筋肉の異常も重度となり、高度な術式が必要となる場合があります。

膝蓋骨脱臼の診断・検査方法

主に3つの検査を行います。

1. 視診・歩様検査 ワンちゃんが立っている時の姿勢や、足の形、歩行の様子を詳しく評価します。4つの足に体重が均等にかかっているか、姿勢や歩行時の足の使い方に異常がないかを確認します。院内でも歩き方をチェックしますが、病院では緊張や興奮により、お家と異なる歩き方となるワンちゃん、ネコちゃんもいます。可能な範囲でよいですが、お家での普段の様子、特に歩き方がおかしい時の様子を動画撮影していただくことで、診断の参考となります。

2. 触診 膝蓋骨を触って、脱臼の有無と脱臼グレードを評価します。膝蓋骨が脱臼した際に後ろ足がどのくらい踏ん張れるかも評価します。同時に、痛みを出す部位がないか、筋肉量の左右差がないか、他の疾患がないかについても確認します。

3. レントゲン検査 膝関節の状態と、大腿骨や脛骨の変形の程度を評価します。骨形態の正確な評価には、正確な撮影が重要ですので、正しい撮影方法を理解した獣医師が行うことが必要です。

自宅でできるチェック項目

特に小型犬では膝蓋骨脱臼が発生しやすいため、ご家族はその点を考慮して、注意深く観察する必要があります。症状は3歳以下でみられることが多いため、若いワンちゃんでは特に注意が必要です。

以下のような項目にひとつでも該当する場合は、病院での診察が推奨されます。
・ワンちゃんをお迎えした際やトリミングなどの際に、膝がゆるいと指摘されたことがある
・後ろ足をかばうように歩く
・歩いている時、走っている時などに、突然後ろ足を上げる(ケンケンや、スキップのように見えることも多い)ことがある
・ストレッチするように、後ろ足をうしろに伸ばす動作をする
・歩行時や走行時に、膝がガクッと崩れるような様子がある
・背中を丸め、膝を曲げたまま歩く
・膝を曲げ伸ばしすると、ポコッと何かが動く感触がある
・後ろ足を片方ずつ上げ3本足で立たせると、どちらか片方の足で上げるのを嫌がる
・抱き上げた時に、O脚や、X脚のように見えたり、後ろ足の足先が交差する。

また、ワンちゃんには股関節の疾患(レッグ・カルべ・ペルテス病や股関節形成不全)もよくみられるため、股関節のチェックも行えるとよいでしょう。

手術方法(外科的治療)

膝蓋骨脱臼は、物理的な異常により膝が伸ばせないことが問題となる疾患のため、一時的な痛みが問題となっている場合を除いて、痛み止めなどの内科的な管理で症状が改善する疾患ではありません。状態を改善させるための根本的な治療は、手術による脱臼の整復のみとなります。
そのため、症状が出ている場合や、膝を伸ばす機能の障害が強い場合には、手術による治療が推奨されます。
また、若いワンちゃんで重度の脱臼がみられる場合は、放置すると筋肉や骨の異常が進行することがあるため、手術をおすすめすることが多いです。

手術では、それぞれの症例の状況に応じて、複数の術式を組み合わせて行います。

以下の2点を達成させることが目的です。

1. 膝を伸ばすための構造である、大腿四頭筋、膝蓋骨、膝蓋靭帯の配列を一直線に並べ、正しい位置に修正すること

2. 膝蓋骨が本来はまっている場所である大腿骨滑車(大腿骨のくぼみ)を、膝蓋骨が十分にはまり脱臼しない程度の深さになるよう形成すること

ワンちゃんの状態にあわせて下記の術式を複数組み合わせて行います。

1. 膝を伸ばすための構造(大腿四頭筋、膝蓋骨、膝蓋靭帯)の配列を一直線に並べ、正しい位置に修正するための術式

・脛骨粗面転位術 膝蓋骨に繋がる膝蓋靭帯は、すねの骨(脛骨)の脛骨粗面、という部分につながります。脛骨粗面が内側(膝蓋骨外方脱臼では外側)にずれると、膝蓋骨には内側(膝蓋骨外方脱臼では外側)への異常な力がかかります。異常な方向への力がかからないよう、膝蓋骨、膝蓋靭帯、脛骨粗面が一直線に並ぶ位置まで、脛骨粗面を移動します。このとき、膝蓋靭帯は傷つけず、膝蓋靭帯が付着している骨(脛骨粗面)ごと移動します。移動させるために骨に一度切り込みを入れるため、その部分は金属製のインプラントで固定します。

・内側(膝蓋骨外方脱臼では外側)組織の解放 膝蓋骨内方脱臼症例では膝の内側に繋がる筋肉や、膝の内側にある周囲組織が緊張し、膝蓋骨を内方に引っ張る力が強くなっていることが多いため、それらの筋肉・組織を切り離し、異常な方向への張力をなくします。(膝蓋骨外方脱臼の場合は、外側の組織に対し同様に行います。)

・外側(膝蓋骨外方脱臼では内側)組織の縫縮 膝蓋骨内方脱臼症例では膝の外側の組織がゆるみ、十分な張力を持たなくなっています。膝の外側にある周囲組織(関節包や、外側支帯)を縫い縮めることで、膝蓋骨に内外側からかかる力のバランスを整えます。(膝蓋骨外方脱臼の場合は、内側の組織に対し同様に行います。)

・大腿骨あるいは脛骨の骨切り術 成長期に重度の膝蓋骨脱臼があると、骨が変形し、筋肉の異常も強くなるため、膝蓋骨を整復するために骨形態の修正も必要となる場合があります。大腿骨や脛骨を一部切除し、長さや形を修正します。骨を切った部分は、金属製のインプラントで固定します。重度の症例でのみ適用される術式です。

2. 膝蓋骨が本来はまっている場所である大腿骨滑車(大腿骨のくぼみ)を、十分な深さになるよう形成するための術式

・滑車溝造溝術 膝蓋骨脱臼症例の多くで、膝蓋骨がはまる場所である大腿骨滑車のくぼみが浅いことが知られています。中には、くぼみがほとんどなく平坦な形をしていることもあります。大腿骨滑車(大腿骨のくぼみ)を深くすることで、膝蓋骨が脱臼しにくくなります。

内科療法(保存療法/経過観察)

膝蓋骨脱臼を改善させる方法は、手術による外科療法となります。ただし、膝蓋骨脱臼を持つ全てのワンちゃんで手術を選択するわけではありません。例えば全く症状がなく、膝を伸ばす機能の障害が強くない場合や、脱臼の頻度がとても低い場合、他に優先する疾患がある場合など、ワンちゃんの状態や、年齢、ご家族のご意向などに応じて、経過観察とする場合もあります。この場合、膝蓋骨脱臼を治すことは難しいですが、生活の質を保ち、今の状況を悪化させないことが目標となります。

一時的に痛みが生じている場合には鎮痛剤を飲み、安静にします。その他日常生活では、滑る床を避けること、適正体重を保つこと、症状の悪化がないか気をつけて観察すること、病院で定期的なチェックを受けること、を心がけましょう。

リハビリ方法

膝蓋骨脱臼は骨格の異常を伴う疾患であるため、リハビリによる根本的な治療は期待できません。ただし、術後の回復を改善させるためのリハビリは非常に有効です。

膝蓋骨脱臼の手術を行なった全てのワンちゃんで必要となるわけではありませんが、術後は一時的に手術した足をかばい、筋肉量も落ちるため、筋肉をほぐすマッサージや、筋肉量を増やすトレーニング、正常な歩行を回復させるためのトレーニングを行うと、術後の良好な機能回復が期待できます。特に、術前に長い間足を挙げたままにしていたワンちゃんなどでは、筋肉がやせてしまい、術後も正しい足の使い方を思い出すのに時間を要する場合があるため、積極的なリハビリをお勧めすることがあります。

当グループではリハビリ専門施設を設け、アメリカのテネシー大学が提供する犬の理学リハビリテーションプログラム(CCRP)を受講した専門獣医師がリハビリを担当します。

入院期間と入院中の過ごし方

当グループでは、膝蓋骨脱臼に対する手術後の入院期間は1-3日ほどが目安となります。

退院後は足を滑らせないよう十分に注意していただき、基本的にサークルなど限られたスペースで安静に過ごし、できるだけ激しい動きを避けましょう。術後2ヶ月ほどかけて、徐々に運動の量を増やしていきます。

抜糸は術後2週間ほどで、術創が閉じたのを確認してから行います。抜糸までの間は、術創に口が届かないよう、エリザベスカラーを着用します。

ワンちゃんの性格にもよりますが、手術を行なった足は、1-2週間の間かばって過ごします。特に両側同時に手術を行なった場合、繊細な子では立ち上がったり歩いたりが難しく、1-2週間ほどご家族のサポートが必要となる場合もあります。徐々に手術した足も使って歩くようになり、手術から2ヶ月ほどで、手術した足も上手に使って歩いたり、走ったりが可能になります。

膝蓋骨脱臼に対する整復手術前後動画

当院での治療について

当院での治療は動物病院様からのご紹介の他に、飼い主様からご連絡も承っています。他の病院で検査データなどがありましたらご持参ください。

まずはONE千葉 どうぶつ整形外科センターへお電話にてご連絡ください。
(電話番号:047-408-9014。 受付時間:9:00〜17:00。)

当グループの2010年〜2022年までの膝蓋骨脱臼手術は860件以上の実績があります。

整形外科専門病院として、多くの症例での経験を活かした、正確でかつ身体への不安が少ない手術を目指しています。最新の知見にアンテナを張り、グループ内のスタッフでディスカッションを行うことで、常に最良の治療が提供できるよう、心がけております。また、CTや3Dプリンター技術などを活用することで、正確かつ精緻な術前計画が可能であり、高度な技術を要する症例にも対応します。

ONE for Animalsグループ

Group OF ONE for Animals

  • ONE
    どうぶつ整形外科センター東京

    東京で唯一のONE for Animalsグループです。院内にはCTを整え、千葉院と連携を取りながら治療にあたっています。

    東京都港区芝2丁目29-12-1F

    TEL:03-6453-9014 
    院長:中條 哲也

  • ONE自由が丘
    どうぶつ整形外科・リハビリセンター

    リハビリ専門の獣医師(CCRP保有)がセンター長を務める、プール付きのリハビリ特化型施設です。早期回復のサポートを行います。

    東京都目黒区柿の木坂1-16-8

    TEL:03-6459-5914 
    センター長:岸 陽子

  • ONE横浜どうぶつ整形外科センター

    横浜スタジアム傍のCTを備えたセンター。手術を日々実施しており、手術までの日数が短いのが特徴です。

    神奈川県横浜市中区太田町1丁目7−1

    TEL:045-305-4014 
    センター長:森 淳和

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