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犬の前十字靭帯断裂

CASE 08

前十字靭帯断裂とは、太ももの骨(大腿骨)と、すねの骨(脛骨)を繋ぐ十字靭帯(骨と骨をつなぐバンドのことで2本あるため十字靭帯と呼ばれています)のうち、前十字靭帯が断裂してしまう疾病です。前十字靭帯は大腿骨に対して脛骨が前に飛び出さないように、ストッパーとして制限する働きがありますが、断裂することでその機能を果たすことができないようになり膝関節が不安定となり力が入らなくなります。また同時に内側半月板という大腿骨と脛骨の間のクッションも損傷する事が多く痛みを生じ歩行に異常をきたします。

これまで手術では、切れた靭帯を代替する人工糸を用いて機能回復を図ってきていましたが、近年は脛骨を切り角度を調整することで膝関節全体の安定化を図る手法の方が術後の回復速度が早いことが分かっています。靭帯は一度切れると自然治癒せず、ダメージを受け続け、重度の関節炎に移行するため、早期の治療が重要となります。

前十字靭帯断裂(損傷)とは

靭帯は骨と骨をつなぐバンドです。そのなかで膝関節内に走行している十字靭帯は、太ももの骨である大腿骨とすねの骨である脛骨を繋ぐ役割を果たしています。十字靭帯には前十字靭帯と後十字靭帯が存在しますが、そのうちの前十字靭帯が切れてしまうことを前十字靭帯断裂と言います。

前十字靭帯が切れてしまうことで脛骨が正しい位置からずれてしまい、膝関節全体へのダメージを与えてしまいます。片側の前十字靱帯を損傷したワンちゃんの多くは、反対側の損傷を生じることが多いです。

前十字靭帯が断裂(損傷)する2つの原因

原因1:靭帯の変性によるもの

変性とは、徐々に構造に変化が生じ、結果的に靭帯が弱くなってしまうことを意味します。変性が進行すると、靭帯は十分な強度を維持できなくなり、普段の運動でも小さな損傷が蓄積していき、部分断裂を生じさせます。さらに悪化すると靭帯の完全断裂に至ります。

前十字靭帯断裂の原因の多くはこの理由であり、1kgのチワワから100kgのセントバーナードまで、幅広い犬種で生じていることが確認されています。

下記の原因2に急性的な外傷を挙げていますが、急性に見えても実は少しずつ進行した結果の断裂である事が殆どであるとも考えられています。前十字靭帯の変性は遺伝的・免疫学的・形態学的・運動学的要因などが関与していると言われています。

原因2:急性的な外傷

交通事故やスポーツ競技などで、ジャンプや急なターンなどを行うことで、非常に強い力が急激に膝関節にかかり、前十字靭帯の損傷に繋がります。人では交通事故やスポーツ時などの外傷に起因して損傷する場合が多いとされていますが、動物の場合は原因1の靭帯の変性によるものが大きな原因だと考えられています。

前十字靭帯断裂(損傷)の症状

症状は前十字靭帯の損傷程度や半月板損傷の有無によって変わりますが、おおむね下記の症状が認められます。

・動き出しが鈍い
・足を引きずる・かばう
・足を上げたまま歩く(ケンケンして歩く)
・足を痛がる

なお、一時的にこれらの症状を見せたものの暫くすると通常に戻るというケースも見られます。しかしながら一度痛めた靭帯はその状態を繰り返すことで、靭帯はもちろん軟骨や半月板を痛めることに繋がり、症状の悪化を引き起こします。

5つの検査方法

検査では、まず実際に関節を触ってみる触診ならびにシットテスト(お座りをさせる検査)を行います。触診では前十字断裂に伴う脛骨の前方への引き出しがないかを確認します。おシットテストでは、正常の座り方ができるかどうかを調べます。前十字靭帯損傷のみに限らず後肢になんらかの異常が生じている場合にはおすわりの姿勢がうまく取れなくなる事が多く、それを確認しています。前十字靭帯損傷が起きている場合には膝関節に痛みが生じているため、通常のお座りができず、足先が外に向いてしまいます。

この時点である程度診断はできるのですが、レントゲン検査にて改めて骨の位置ならびに前十字靭帯損傷損傷時に確認される膝関節内に存在する脂肪の変位像(ファットパットサイン)を確認します。

次に細胞診/関節液検査にて他の疾病との鑑別を行い、最後に膝関節の詳細な状態を確認するために関節鏡検査を行います。関節鏡検査では、身体への負担を最小限に留めながら、肉眼では確認ができない靭帯の損傷具合を確認することができます。前十字靭帯の部分断裂の初期段階では関節鏡検査を行わないと確定診断ができない場合が多いです。

手術の適応

ワンちゃんの年齢や関節の状態、持病の有無などによって手術適応とするか否か分かれますが、目安となる手術適応か否かのケースについてご紹介します。なお、下記に説明する「部分断裂」とは、部分的(一部)な断裂を意味します。靭帯は部分断裂を繰り返し、最終的に完全断裂となります。

部分断裂の場合

放置していくとそのまま重度の関節炎に移行するため外科手術をお勧めします。診断には関節鏡検査が必要となる場合がありますが、完全に断裂して膝関節に損傷が生じる前に手術を行う方が完全断裂を起こしてから手術を行うよりも経過が良いという報告もあります。

完全断裂の場合

外科手術をお勧めしています。完全断裂では膝関節に重度の関節炎が生じる事と、逆側の前十字靭帯も断裂してしまうと起立する事自体が困難になってしまいます。

手術方法(外科的治療)

手術方法には大きく2通りあります。1つは人工靭帯を関節外に通し、失われた靭帯の機能の代替を目的とするもの。もう1つは脛骨を切り、大腿骨に対する角度を調整することで膝関節全体の安定化を目的とするものです。以前までは人工靭帯を通す方法(関節外法)が多く行われていましたが、術後に長期間の安静が必要となる事・術後にも膝関節の不安定が消失しない症例もあります。

そのため、今では脛骨の骨切りを行い膝関節全体の安定化を目指す方法(脛骨骨切り術)の方が術後の経過が良いという結果が世界中で確認されており、少しずつ行う動物病院が増えてきています。当院では脛骨骨切り術の中でも、TPLO法に力を入れて実施しています。前十字靭帯断裂が起きると、前十字が留めていた脛骨が前方へ引出されるようになってしまいます。そこで脛骨を前方へ突き出さないようにするために脛骨の上部の骨を切り出し、大腿骨に対する角度をかえることで、前方へ脛骨が引出される力を緩和させます。

内科療法(温存/保存療法)

前十字靭帯損傷があっても他の基礎疾患などがあり、症状がそこまで重くない場合には、外科手術は行わず、保存療法を採ることもあります。しかしながら、この方法はいわば現状維持を目指す方法であり、実際は関節へのダメージが蓄積され、関節炎を引き起こすことも否定できません。

保存療法は根本的な解決にはならず現状維持を目指していく治療法です。重度の心疾患などがあり麻酔のリスクが高いシニアの子などでは外科治療を避け、内科治療を選択することがあります。内科療法としてはこのような方法が挙げられます。

・ケージレスト(ケージの中で安静にさせる。運動制限)
・鎮痛剤の投与(痛み止め)
・サプリメントの投与
・自宅の環境の整備(滑り止めマットを引いたり、階段を極力上らせないなど)
・体重の管理
・リハビリテーションの実施
・サポーターなどの装具の着用

リハビリ方法

前十字靭帯の損傷・断裂を生じ、手術治療を行った場合、損傷・断裂を起こした足と、そうでない足で筋肉差が生じたり、歩き方・重心の掛け方に差異が生じたりしてしまいます。そこでリハビリでは、正常な歩き方ができるように、筋肉量を増やすためのトレーニングを行なったり、凝り固まった筋肉を動きやすくするためのマッサージが必要となります。基本的には外科手術後の運動機能の回復を目指して行なっていきます。

近年はリハビリに力を入れている動物病院も増えているため、リハビリまでを見据えた動物病院探しを行うことも重要です。当院でもそうですが、整形外科専門の動物病院ではトレッドミルやプールを用意し、効果的なリハビリを行うところもあります。

当院にはリハビリ専門の獣医師が在籍しています。獣医療先進国であるアメリカのテネシー大学が提供する犬の理学リハビリテーションプログラム(CCRP)を受講しており、獣医師としての知見を活かしリハビリに当たっています。また、人間の理学療法士資格および動物看護師資格を保有したスタッフも在籍しています。そのスタッフは理学療法についてのセミナーを多数行っており、人と動物の身体の違いを理解したうえで、効果的なリハビリを検討します。整形外科専門病院だからこそ、リバビリにも専門の人材が担当いたします。

実際に当院で行なっているリハビリ方法をご紹介しています。ご自宅でも行うことができるものもありますので、ご参考にされてみてください。

入院期間と入院中の過ごし方

入院期間ははそのワンちゃんの症状に合わせて判断しますが、当院では平均して1日〜3日ほどが大半です。その期間内には前述のリハビリを毎日行うほか、歩ける状態の子は毎日当院併設のドッグランで散歩を行います。また術後の早期回復を目指してアイシングを行い術部の炎症を下げるようにしています。術後一ヶ月ほどは安静を守るようにお願いしており、軽い散歩などでのでの生活を推奨しています。術後2週間ほどすると抜糸を行い、その際に足の状態を確認します。

当院では入院期間中は毎日リハビリを行うほか、天気の日には当院併設のドッグランで1日2〜3回ほど歩く練習を行うようにしています。

入院期間中はワンちゃんに「機嫌良く」過ごせてもらえるよう、1日に預かる入院患者数を制限しているほか、ワンちゃんに頻繁に声をかけ、安心できる環境を整えています。ワンちゃんの機嫌はリハビリの運動の効果に大きく貢献します。

内科療法・関節外法における再発のリスク

内科療法や関節外法による手術を選択した場合、糖尿病や高齢などの基礎疾患がある場合には、治療効果がなく膝関節の緩みが取れないことが見られます。関節外法での膝関節の安定が取れない場合や内科治療の効果が薄い場合には手術が適応となります。

内科療法は基本的に現状維持を目指すものではありますが、関節へのダメージの蓄積は避けられず、一時的に収まっていた症状が再発することは少なくありません。関節外法は靭帯の代わりとなる糸(縫合糸など)を体内に埋め込む形になるため、膝関節の安定度が得られないとゆるみや急激な負荷に耐え切れず切れてしまい、不安定が再度生じることがあります。

また手術を行ったのに症状が良化しない場合には内側半月板の損傷をしっかりとケアできていない場合が多いです。その場合には関節鏡下での精査などが必要なる場合もあります。当院では主にTPLO法による手術治療を主に実施しております。

前十字靭帯断裂に対する整復手術前後動画

当院での治療について

当院での治療は動物病院様からのご紹介の他に、飼い主様からご連絡も承っています。他の病院で検査データなどがありましたらご持参ください。

まずは当院へお電話にてご連絡ください。
(電話番号:047-408-9014。 受付時間:9:00〜17:00。)

当院グループの2010年〜2019年までのTPLO手術実績700件以上の実績があります。

整形外科・神経外科特化型病院だからこそ、CTやMRIを活用し、精緻な手術、より身体への負担の少ない手術を目指します。当院獣医師が専門外来として訪問させていただいているかかりつけ病院からは手術のスピードが早く、正確な手術であるとと評価をいただいてます。

前十字靭帯断裂にあてはまる症状
動き出しが鈍い
脚を引きずる・かばう
脚を上げたまま歩く
脚を痛がる
前十字靭帯断裂を発症しやすい犬種
ウェスティ(ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア)、トイ・プードル、チワワ、パピヨン、ミニチュアピンシャー、ポメラニアン、パグ、狆、トイ・マンチェスター、セントバーナード、マスティフ、ピットブル、ロットワイラー、秋田、ラブラドール・レトリーバー、フラットコーテッド・レトリーバー、ゴールデンレトリーバー、甲斐、土佐、ダルメシアン、シベリアンハスキー、柴犬、雑種、イングリッシュ・コッカースパニエル、アメリカン・コッカースパニエル、ジャックラッセルテリア、ウェルッシュ・コーギー・ペンブローク、ペキニーズ、シーズー、ビーグル、フレンチ・ブルドック、ジャーマン・シェパード

千葉院以外のグループ動物病院

Group OF ONE for Animals

  • ONE
    どうぶつ整形外科センター東京

    東京で唯一のONE for Animalsグループです。院内にはCTを整え、千葉院と連携を取りながら治療にあたっています。

    東京都港区芝2丁目29-12-1F

    TEL:03-6453-9014 
    院長:森 淳和

  • ONE自由が丘
    どうぶつ整形外科・リハビリセンター

    リハビリ専門の獣医師(CCRP保有)がセンター長を務める、プール付きのリハビリ特化型施設です。早期回復のサポートを行います。

    東京都目黒区柿の木坂1-16-8

    TEL:03-6459-5914 
    センター長:岸 陽子

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