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前十字靭帯断裂
(関節外法・TPLO法による制動)

CASE 03

膝の関節内には大きく、2本の靭帯が走行しており前/後十字靭帯と呼ばれ膝の安定性に寄与しています。 そのうち前十字靭帯が部分的もしくは完全に損傷してしまった状態が前十字靭帯損傷です。 前十字靱帯の損傷が生じると膝の安定性が低下し、靱帯を損傷した側の膝に力がかからなくなり、後肢を挙上(あげる)ことが多く見られます。 前十字靭帯の損傷は、人では交通事故やスポーツ時などの外傷に起因して損傷する場合が多いとされています。しかし犬の場合、靭帯の変性によって断裂することが多く報告されており、前十字靱帯損傷を認めた犬ではほとんどで靱帯の変性が認められます。靱帯の変性とは、徐々に靱帯の構造に変化が生じ、その結果、靱帯が弱くなってしまう状況です。靱帯の変性は年齢や骨形態(骨の形)などが関与しているとされていますが、変性が生じる理由は完全には解明されていません。その他、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患やリウマチ様関節炎などの免疫介在性疾患等の基礎疾患が存在すると前十字靭帯に損傷が生じる事があります。小型犬で多く認められる膝蓋骨の内方脱臼(お皿の脱臼)も前十字靱帯損傷のリスクを高めるとされています。前十字靱帯損傷は靱帯の変性にて生じる事がほとんどであるため片側の前十字靱帯を損傷した犬の多くは、反対側の膝にも前十字靱帯の変性が生じていることが多く、高い割合で1〜2年以内に反対側の損傷を生じます。また前十字靭帯の損傷は、多くの犬種で生じ1kgのチワワから100kgのセントバーナードまで様々な犬種での報告があります。また前十字靭帯の損傷によって膝関節が不安定となり、同時に内側半月板(膝関節内のクッション)が損傷する場合が多く、痛みや違和感の原因となります。

症状

触診検査触診検査

前十字靱帯断裂によって膝関節が不安定になるため触診検査では脛骨の前方引き出し徴候(膝が前に滑ってしまう:ドローワーサイン)や脛骨の前方への突出(脛骨圧迫試験による)が認められます。ただしこれらの検査は前十字靱帯が部分断裂している際には検出ができることが多いですが、前十字靱帯が部分断裂している場合にはわかりにくいことが多くあります。その他前十字靱帯損傷時には、膝関節を伸ばした際に痛み(膝の伸展痛)が認められ、特に内側半月板を損傷している場合は、膝関節の屈趾伴いクリック音が確認できることがあります。また慢性経過をとった場合には、膝関節の内側の腫れ(バッドレスサイン)が生じたり、膝の問題で後ろ足を使用できない事による筋力低下(筋肉の不使用性萎縮)などがみられます。

画像検査X線撮影

X線画像では前十字靭帯損傷に伴い、関節内に炎症が生じ関節液の増加が認められます。その結果、膝関節内に存在する脂肪の圧迫像(ファットパットサイン)が生じます。また損傷が起き時間が経過しているものでは炎症の結果、関節炎が生じ大腿骨滑車稜、あるいは脛骨高平部の尾側、膝蓋骨遠位などに骨棘形成(関節炎)がみられます。

細胞診

触診やX線検査で確定が困難なときや、他の疾患との鑑別をする際に、関節液の量や性状の変化を確認することが有効になります。

関節鏡検査

関節鏡とは、関節の中を検査するための内視鏡(硬性鏡)です。高倍率で関節内を観察できるため、肉眼での膝関節内の精査よりも膝関節内の前十字靭帯の状態や関節軟骨の状態、半月板の損傷程度を詳細に把握することができます。 当院ではドイツKARL STORZ社製の関節鏡を導入し関節鏡下での検査を行う事ができます。

臨床症状

前十字靭帯損傷の症状は前十字靭帯の損傷程度や半月板損傷の有無によって変わり、体重を全く負重しなかったり、間欠的な跛行(足をあげたりあげなかったり)を示したりと様々です。 半月板の損傷がある場合は、一般的に外科的な治療が施されるまで跛行が観察されます。 また靭帯の損傷(部分断裂)が徐々に進行していく場合、初期は軽い跛行のみであった症状が時間を経るごとに徐々に強くなっていく場合が多く認められます。この場合には関節鏡にて精密な検査を行う事で早期に診断を下す事ができます。

臨床症状

内科的療法は体重が10kg以下で前十字靭帯損傷以外の他の障害が併発していない場合などに適用となります。半月板が損傷している場合には痛みや違和感が残り、内科的療法に反応しない場合がよく認められます。内科的治療は鎮痛鎮痛剤の投与と運動療法が中心となります。多くの場合、6週間以上の期間を要します。

外科的療法は、小型犬であっても内科的療法後に跛行が改善しない場合や、10kg以上の中~大型犬で前十字靭帯が損傷している症例、前十字靭帯の損傷に加え膝蓋骨脱臼や半月板損傷などが前十字靭帯断裂に併発している場合には適応となります。手術方法には、一般的に行われているナイロン糸を用いた関節外法、ここ最近、考案された脛骨高平部骨切り術(TPLO)、脛骨粗面前進術(TTA)などがあります。TPLO法は、以前は大型犬様の大きなプレートしかありませんでしたが、最近は小型犬様のプレートも揃ってきており3kgの小型犬にもTPLO法が実施できるようになっています。TPLO法は比較的新しい手術であり手技に慣れた術者が手術を行なわないと術後の合併症につながってしまいます。

前十字靭帯断裂にあてはまる症状
動き出しが鈍い
脚を引きずる・かばう
脚を上げたまま歩く
脚を痛がる
前十字靭帯断裂を発症しやすい犬種
ウェスティ(ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア)、トイ・プードル、チワワ、パピヨン、ミニチュアピンシャー、ポメラニアン、パグ、狆、トイ・マンチェスター、セントバーナード、マスティフ、ピットブル、ロットワイラー、秋田、ラブラドール・レトリーバー、フラットコーテッド・レトリーバー、ゴールデンレトリーバー、甲斐、土佐、ダルメシアン、シベリアンハスキー、柴犬、雑種、イングリッシュ・コッカースパニエル、アメリカン・コッカースパニエル、ジャックラッセルテリア、ウェルッシュ・コーギー・ペンブローク、ペキニーズ、シーズー、ビーグル、フレンチ・ブルドック、ジャーマン・シェパード

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