椎間板を理解するために、まず脊柱(せきちゅう)について説明します。脊柱とはいわゆる背骨です。椎体(ついたい)が連なり構成されています。椎体は部位ごとに名称があり、首側からこのように分けられます。各椎体の右側の数字はその椎体の数を表します。
・頸椎(けいつい):7椎
・胸椎(きょうつい):13椎
・腰椎(ようつい):7椎
・仙椎(せんつい):3椎が1個に癒合(まとめて仙骨と呼ばれる)
・尾椎(びつい):椎数は犬種により異なる(まとめて尾骨と呼ばれる)
なお、人間の椎体の数は犬とは異なります。これは古代の進化の過程で、生存競争を生き残るために各環境に適応するために変化したものだと考えられています。
※脊椎という言葉も存在ます。「脊椎」とは便利な言葉で、先に述べた「脊柱-背骨そのもの」の意味でも「椎骨-背骨を構成している骨」の意味でも用いられます。
※椎骨(ついこつ)とは、椎体と椎弓を合わせた名称。
脊柱の周りには下記のものが存在します。椎間板ヘルニアを理解するために必要なもののみを紹介します。
・椎間板:椎骨同士を繋ぐ。クッションの役割を果たす。中心の「髄核」、その周りの「線維輪」で構成される。
・靭帯:脊柱に沿って存在し、椎骨同士を繋ぐ。強靭な結合組織の束で弾性がある。
・脊柱管:脳から腰まで続く、中枢神経(脊髄)の通り道。
・脊髄:脳から腰まで続く中枢神経。脳と体の各部を連結し、知覚・運動の刺激伝達・反射機能を司る非常に重要な器官。骨膜や硬膜などに包まれている。
椎間板とは、椎骨同士を繋げ、クッションの役割を果たします。ゼラチン状の「髄核」とコラーゲンを含む「線維輪」から構成されており、椎骨にかかる衝撃を吸収します。また、椎骨の微妙な動きを可能にする軟骨関節を形成し、靭帯とともに脊椎を保持する役割を持ちます。
人の場合、加齢により髄核から水分が減り、衝撃の吸収能力を徐々に失っていきます。線維軟骨もまた、年齢とともに弱くなり、これらにより慢性的な痛みを引き起こすと考えられています。
「ヘルニア」とは「何かが飛び出すこと」を意味します。つまり、椎間板ヘルニアとは「椎間板が本来の位置から飛び出してしまうこと」であり、飛び出した先が神経の塊である脊髄であるため、結果的に運動機能に影響が出てしまうのです。どれだけの量の椎間板が脊髄を圧迫しているか、どのくらいの勢いで椎間板物質が飛び出したかによって重症度が変わってきます。これらの圧迫の程度によって症状は痛みだけ感じることから後ろ足が全く動かない麻痺まで様々です。
椎間板ヘルニアには種類が2つあり、ハンセンI型とハンセンII型に分類されます。「ハンセン」という名称は、ハンセンという方がヘルニアの種類を分類したことに由来します。
髄核がチーズや骨のように石灰化し、線維輪を突き破り、脊髄神経を圧迫してしまうものです。(髄核の脱出、と表現されます)石灰化が起こると椎間板は衝撃を吸収することができなくなり、日常生活の動きによって変性した髄核が徐々に線維輪に細かいヒビを作り出します。最終的にこのヒビが貫通した時に硬い変性した髄核が突如大きな塊として飛び出し、脊髄を圧迫します。
犬の場合にはこのハンセンI型の発生が多く、特に軟骨異栄養性犬種に起こりやすく、特にミニチュア・ダックスフンドは好発犬種です。その他にも、トイ・プードル、ビーグル、シーズー、ペキニーズ、パピヨンやフレンチ・ブルドッグなどに、大型犬種ではラブラドール・レトリーバーやジャーマン・シェパードそしてロットワイヤーなどで椎間板ヘルニアが生じやすいとされています。年齢は2歳以上で多く見られます。なお、ミニチュア・ダックスフンドは、1歳以降から椎間板に石灰化が生じると報告されています。
しかし、どの犬種でも起こる可能性はあり、最近は猫でも椎間板ヘルニアと診断されるケースが増えています。椎間板ヘルニアは頸椎(首の部分)および胸腰椎(胸から腰の部分)で生じる事が多く、頸椎での発生率は14~25%、胸腰椎での発生は66~84%であると報告されています。
ハンセンI型椎間板ヘルニアは非常に強い痛みを伴う疾患で、特に後ろ足が完全に麻痺してる場合(特に痛みを感じなくなっているような場合)には緊急事態であり、迅速な対応が必要です。
加齢に伴って椎間板が変性し、線維輪が膨らむことで、脊髄を圧迫するものです。(線維輪の突出と表現されます)
加齢(老化)に伴って椎間板が変性し、厚くなった線維輪が脊髄を圧迫してしまいます。人の椎間板疾患に類似しており、軟骨異栄養症以外の犬に発生することが多いです。このハンセンⅡ型の椎間板ヘルニアは成犬から老犬に多く、慢性的に経過する事が多いとされています。
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