膝関節の両側(左右)前十字靭帯の断裂(柴犬)の手術前後の歩行の経過
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前十字靭帯とは、膝関節の中で、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)を繋ぐ靭帯です。前十字靭帯は、脛の骨が前に飛び出す動きを制限しています。この靭帯が断裂すると、大腿骨と脛骨の位置がずれ、後ろ足が踏ん張れなくなります。また、前十字靭帯が切れると、大腿骨と脛骨の間でクッションとして働く半月板も損傷し、痛みの原因となることがあります。このように前十字靭帯が断裂すると、膝の不安定性と痛みにより、後ろ足を挙げる、後ろ足に十分に体重をかけられない、などの歩様異常を引き起こします。
外傷で切れてしまうことは稀で、多くは加齢とともに靭帯が変性していくことが原因となります。そのため、中年齢あるいは高齢のワンちゃんに生じやすい疾患です。
前十字靭帯は、一度切れると自然には治癒しないことがわかっているため、膝の安定化を得るためには手術による治療が必要です。ワンちゃんでは、骨の形を変えることで膝の安定化を図る手術の成績が高いことがわかっています。
前十字靭帯は、膝関節の中で、太ももの骨(大腿骨)の後ろ側から、すねの骨(脛骨)の前側に向かって、外側から内側に斜めに走る靭帯です。前十字靭帯は、脛の骨が前に飛び出す動きを制限する、ストッパーとして機能しています。この靭帯が断裂すると、後ろ足を踏み込む度に脛骨が前に移動し、大腿骨と脛骨の位置がずれるため、膝関節がぐらつき、後ろ足が踏ん張れなくなります。
また、前十字靭帯が断裂し脛骨の位置がずれると、大腿骨と脛骨の間でクッションの役割をしている半月板に異常な負荷がかかり、損傷してしまうことが多いです。前十字靭帯を断裂したおよそ8割程度の症例で、半月板損傷が生じるとされています。損傷した半月板は膝の中を動き、痛みの原因となります。
前十字靭帯断裂は、ワンちゃんでは非常によくみられ、小型犬から大型犬まで、どんな犬種でも起こります(ネコチャンでも起こります)。加齢に伴って靭帯が弱くなる(変性)ために生じる疾患であるため、中年齢あるいは高齢のワンちゃんでよく発生します(一部のワンちゃんでは、若くして断裂することもあります)。また、片側の前十字靭帯を損傷したワンちゃんでは、反対側の後ろ足でも同様に、前十字靭帯が断裂しやすいことがわかっています。
前十字靭帯や半月板の損傷の程度によって症状は様々ですが、一般的には下記の症状が認められます。
・後ろ足を挙げる
・後ろ足をひきずる、かばう
・後ろ足の体重のかけ方が左右で違う(体重のかかっていない足は、つま先立ちのように見えます)
・後ろ足を痛がる
・膝関節が腫れる
・座り方が変わる(悪い方の後ろ足を外側に開いて座る)
前十字靭帯が完全断裂した直後は痛みがありますが、数日すると痛みは落ち着いてきます。そのため、数日間は完全に足を挙げていたが徐々に足を地面につくことが増えた、だんだん足の使い方が改善した、といった経過もよくみられます。ただし、前十字靭帯は一度切れると自然治癒はせず、痛みが改善しても膝のぐらつきは残るため、徐々に足が使えるようになってきた場合でも、体重は十分にかけられていないことがほとんどです。
また、半月板の損傷が強い場合は、痛みが継続し、数日経っても後ろ足を挙げたままとなることがあります。
さらに、前十字靭帯が切れたまま放置すると、膝関節の関節軟骨も損傷し、変形性関節症が進行します。
前十字靭帯断裂は、歩様検査、sit test(お座り検査)、触診、レントゲン検査、関節鏡検査の5つの検査方法を組み合わせて診断します。
足を挙げる、かばう、などの異常な足の使い方をしていないか、4つの足に均等に体重がかけられているか、詳しく見て検査します。
お座りをさせたときの姿勢を確認します。前十字靭帯断裂が生じると関節の中に水(関節液)が溜まり、膝が曲げにくくなるため、悪い方の足を外に投げ出すようにして座ることがあります。
ワンちゃんの膝を触って、膝の不安定性や痛みがあるかを確認します。主に4つの点をチェックします。
大腿骨を押さえた状態で、脛骨が前後に動くかを確認します。ほとんど動きがないのが正常ですが、前十字靭帯が完全に断裂している場合は、脛骨を前に動かすことができます。
前十字靭帯が完全に断裂している膝では、後ろ足に体重をかけたときの動きを再現すると、脛骨が前に飛び出してくる動きが検出できます。
膝を曲げ伸ばししたとき、コリッと音がする場合があります。この音(クリック音と呼びます)があると、半月板が損傷している可能性が高いことがわかります。
前十字靭帯が断裂していると、膝を完全に伸ばしたときに痛みが出ます。
レントゲン検査では、骨の位置関係や関節の中の状態などを調べることができます。
後ろ足に体重をかけたときの動きを再現しながら撮影することで、脛骨が前にずれるかどうか、確認することができます。
ファットパッドサイン:膝関節の中は、通常レントゲンでは黒く写ります。前十字靭帯の変性が進行すると、膝に水(関節液)が溜まり、レントゲンで撮影すると白く写ります。白く写る部分が増え、黒く写る範囲が小さくなることを、“ファットパッドサイン”と呼んでいます。これは、症状がある足だけではなく反対の足でも確認します。反対の足でもファットパッドサインがみられた場合、反対の足の前十字靭帯が断裂するリスクは高いとされています。
前十字靭帯が完全に断裂している場合は、1〜4までの検査で判断できることがほとんどです。ただし、部分断裂の場合には最終的な判断に関節鏡検査が必要となる場合があります。関節鏡とは、関節内の検査と処置を目的とした内視鏡で、直接関節の中を観察できるため、靭帯の変性の程度や断裂の有無、半月板の損傷の程度、関節軟骨の損傷の有無などを詳細に評価することができます。全身麻酔が必要となりますが、非常に小さな傷のみで実施でき、身体への負担は少ないことが特徴です。
前十字靭帯が完全に断裂している場合、靭帯が自然に治癒することはありません。そのため、靭帯機能が失われたことによる膝の不安定性や、半月板の損傷に伴う痛みを解消するためには、手術による治療が必要です。ただし、ワンちゃんの年齢や持病の有無など、状況に応じてご家族と相談し、保存療法を選択する場合もあります。保存療法では、完全な機能の回復は望めませんが、ある程度足を使うことができ、日常生活が送れることを目指します。
前十字靭帯が部分的に断裂している場合も、手術による治療をお勧めする場合があります。完全に断裂する前に発見し治療した場合、完全に断裂してから治療を行うよりもメリットが大きいとする意見もあります。断裂の程度やそれに伴う症状はワンちゃんによって様々ですので、ワンちゃんの状況に合わせて治療方針を相談し、決定します。
前十字靭帯が断裂している場合、足の機能を回復させるためには手術の実施が望ましいですが、手術のリスクを上げる他の疾患や、ご家族のご意向などにより、保存療法を選択することもあります。完全な機能回復は得られず、大腿骨と脛骨の位置関係も改善しないことが多いですが、膝に不安定が残りながらも歩行自体は可能となるワンちゃんも多いです。ただし、大型犬種など、体重が重くなるほど、歩行の異常は残りやすいとされます。また、半月板の損傷がある場合は関節内の痛みが残り、保存療法だけでは歩行が改善しにくい傾向があります。
靭帯が切れた直後で痛みや炎症が強い時期は、痛み止めの投与と、安静(ケージレスト/運動制限)で管理します。痛みや炎症が落ち着いてきてからは、関節の状態を悪化させないことが目標となります。対応策としては、生活環境の整備(滑る床を避ける、段差の昇降を避けるなど)や、適正体重の維持などが挙げられます。筋肉量の維持のために、無理のない範囲でリハビリテーションを実施することも有効な場合があります。
前十字靭帯断裂に対する手術は以下の2つの目的で行います。
1.膝関節の不安定性を解消する
2.損傷した半月板を除去し、痛みを取り除く
手術方法は複数あり、現在行われている術式だけでも、TPLO法、TTA法、関節外法、CBLO法などがあります。(人で行われるような関節内の靭帯再建術は、ワンちゃんでは長期的な機能維持が難しいことがわかっており、現在は選択されていません。)この中で最も良好な機能回復が得られ、安定した成績が確認されている方法として、我々のグループではTPLO法を基本的に選択しています。ワンちゃんの状況によっては、こちらも実績のある方法である、関節外法を選択することがあります。
骨の形を変えて固定することで、膝関節の安定性を高める方法です。早く機能回復が得られ、長期的な安定性も高いことが特徴で、現在のところ最も成績の良い方法とされています。
脛骨の大腿骨と関節する部分は“脛骨高平部”と呼ばれ、この部位には傾斜があります。後ろ足に体重をかけるとき、大腿骨には脛骨高平部の傾斜を滑り落ちる方向に、脛骨には大腿骨に押されて前に飛び出す方向に力がかかります。通常この動きは、前十字靭帯により制限されています。しかし、前十字靭帯が断裂した膝では制限がなくなるため、膝関節に体重をかける度に大腿骨が滑り落ち、脛骨は前に飛び出します。そして、大腿骨と脛骨の位置関係がずれ、後ろ足を踏ん張れない状態となります。TPLO法では、特別な形の器具で脛骨の骨切りを行い、脛骨高平部の傾きを平らに近い角度へと変えます。すると、後ろ足に体重をかけた時の大腿骨の滑り落ちや脛骨の飛び出しが、物理的に起こらなくなります。角度を調整した後は、骨切りを行った部分を特殊なインプラント(TPLOプレート)とスクリューで固定します。
インプラントのサイズは小型犬用から超大型犬用まで様々あり、ワンちゃんの体重や骨の形態に合わせて選択します。どのような体格のワンちゃんでも、良好な成績が得られています。TPLO法は、特殊な器具を使う上に、骨を上手に固定する技術も必要なため、術者の技量と経験により成績が左右されやすい手術です。当センターでは多くの症例を経験し熟練した術者と、術式に精通したスタッフが協力し、手術に当たることで、正確かつ短い時間での手術が可能です。
関節の外側に糸をかけて、脛骨が前に飛び出さないよう止める方法です。特殊な器具を必要とせず、技術的に実施しやすい術式です。しかし、この糸は数ヶ月すると切れたり緩んだりします。それまでの間に、関節周囲に新しい組織が増えることで、正しい位置で関節が固まってくれることを期待します。多くのワンちゃんで症状の改善は期待できますが、ワンちゃんの骨は犬種や個体によって形が違っているため、糸を正しく設置しても、大腿骨と脛骨の動きが十分に制限できない場合もあり、一部のワンちゃんでは十分な機能回復が得られないこともあります。
関節を安定化させる方法と同時に、関節の中を確認し、損傷している半月板がないかをチェックします。ほとんどのワンちゃんでは、前十字靭帯断裂と同時に半月板の損傷が生じており、痛みの原因となることもあります。傷んでいる半月板を取り除くことで、痛みは解消されます。人でも同様の手術が行われることがあります。
当センターでは、前十字靭帯断裂に対する手術後の入院期間は1-3日ほどが目安となります。入院中は、手術した足や全身の状態をチェックすることはもちろん、ワンちゃんの心も気遣い、安心して過ごせる環境づくりに配慮しています。
退院後は足を滑らせないよう十分に注意していただき、基本的にサークルなど限られたスペースで安静に過ごし、できるだけ激しい動きを避けましょう。術後2ヶ月ほどかけて、徐々に運動の量を増やしていきます。
抜糸は術後2週間ほどで、術創が閉じたのを確認してから行います。抜糸までの間は、術創に口が届かないよう、エリザベスカラーを着用します。
ワンちゃんの性格にもよりますが、手術を行なった足は、1-2週間の間かばって過ごします。徐々に手術した足も使って歩くようになり、手術から2ヶ月ほどで、手術した足も上手に使って歩いたり、走ったりが可能になります。
前十字靭帯断裂術後の回復を改善させるためのリハビリは、非常に有効です。
前十字靭帯断裂の手術を行なった全てのワンちゃんで必要となるわけではありませんが、術後は一時的に手術した足をかばい、筋肉量も落ちるため、筋肉をほぐすマッサージや、筋肉量を増やすトレーニング、正常な歩行を回復させるためのトレーニングを行うと、術後の良好な機能回復が期待できます。特に、術前に長い間足を挙げたままにしていたワンちゃんなどでは、筋肉がやせてしまい、術後も正しい足の使い方を思い出すのに時間を要する場合があるため、積極的なリハビリをお勧めすることがあります。
当センターではリハビリ専門施設を設け、アメリカのテネシー大学が提供する犬の理学リハビリテーションプログラム(CCRP)を受講した専門獣医師がリハビリを担当します。
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