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脊髄梗塞:線維軟骨塞栓症(FCE)Spinal cord infarction : fibrocartilaginous embolism

概要

線維軟骨塞栓症(FCE)は、脊髄梗塞で最も一般的な原因です。その他の原因として過去には血栓症、脊椎・脊髄腫瘍による局所の脊髄血管障害、寄生虫・異物の脊髄血管迷入など様々な要因が報告されていますが、FCE以外の原因による脊髄梗塞は非常に稀です。ここでは、脊髄梗塞の代表としてFCEについてご紹介します。

病因

椎間板髄核(犬の椎間板ヘルニアを参照下さい)と同様の、線維軟骨とよばれる物質が、脊髄の血管内に詰まってしまうことで発症します。急激に引き起こされる虚血性による脊髄障害ですが、どのようにして椎間板髄核が脊髄の血管内に侵入してしまうのかは、実は分かっていません。詰まった血管が支配している領域での虚血性壊死および線維軟骨が栓子として確認されます。多くの症例が、激しい運動中や散歩中、散歩帰宅時などに急に発症します。

症状

発症時にのみ、悲鳴をあげ、発症後数時間のみは痛みを示すこともありますが、以後は痛みを訴えることはありません。脊髄の血管が詰まることで発症する病気なので、症状のピークが24時間以内であり、それ以降に症状が進行(悪化)することは、脊髄軟化症に進行するケースを除いて非常に稀です。症例の多くは、数日から数ヵ月かけてゆっくりと改善を示します。発生する場所によって、首の脊髄であれば四肢不全麻痺や麻痺、腰の脊髄であれば後肢不全麻痺や麻痺だったりと様々で、左右が不対称な麻痺を起こすことが比較的多いです。好発部位は、頚膨大部(C6-T2髄節)および腰膨大部(L4-S3髄節)が多いと言われています。

診断

レントゲンやCT、脊髄造影検査では異常を検出することは困難であり、診断にはMRIが必要となります。MRIではT2強調画像(水分を白く描出する画像条件)で脊髄実質性高信号(白く描出されます)が認められます。また梗塞巣直下、もしくは前後1〜3椎骨以内の椎間板変性(T2強調画像で低信号(黒く描出されます)) などがしばしば同時に確認されます。画像診断では脊髄炎と脊髄梗塞は似通った画像であることも多く、脳脊髄液検査(CSF検査)を用いて炎症性疾患のふるい分けを実施することが、ほとんどの場合で必要になります。

下の症例MRIでは、C5-T1の範囲でT2強調画像の矢状断面像で白く描出されています。また、このC5-C6の体軸断面では、正中-左の脊髄実質がT2強調画像で白く観察されました。この部位を含めて、造影T1強調画像では造影増強効果にも乏しく、この画像検査の後に実施したCSF検査でも炎症性を疑う所見が認められないことから、FCEが疑われました。この症例は、その後は経過観察のみで麻痺の症状の回復が見られました。

脊髄梗塞:線維軟骨塞栓症(FCE)の診断

治療・予防

FCEに対して特異的な治療法はありません。発症直後(8時間以内)において、コハク酸メチルプレドニゾロン(MPSS)の投与やポリエチレングリコールの有効性について記載した論文はありますが、近年、脊髄損傷などに対するこれらの薬剤治療効果についての議論が進み、現在では有効性がない、もしくは低いという見解が主流となっています。基本的には、比較的早期の段階から理学療法実施が推奨されます。FCEの予後は、病変の場所や初期症状(24時間以内)の重症度により大きく異なります。文献的には74~81%で発症から概ね2週間以内に臨床症状が回復しています。理学療法は当センター自由が丘院でも対応しております。

脊髄梗塞にあてはまる症状
急な片側の前足・後足の麻痺
急な片側の後足の麻痺
急に痛がって、その後はあまり痛がる様子はない、ケロッとしている
    脊髄梗塞が発症しやすい犬種
    若齢の大型犬、ミニチュア・シュナウザー、シェットランド・シープドッグ、ラブラドールレトリバーなど(ただし、どの犬種・猫でも、そして中〜高齢でも発症する可能性があります)

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