椎間板ヘルニアには「先天的なハンセンI型」と「加齢によるハンセンⅡ型」がありますが、いずれも予防は難しく、大事なのは早期発見です。椎間板ヘルニアを正確に診断するためには、下記の4つの検査方法が必要不可欠です。なお、当院ではCT、MRIを完備している他、画像診断の先生を定期的にお呼びし、正確な診断に務めています。
触診や問診、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などを用い、「椎間板ヘルニア以外の病気である可能性を除外する」ために実施します。すなわち、スクリーニング検査だけでは確定診断は下せません。
神経学的検査とは、神経症状を示す動物に対し行う、観察(視診)、触診、姿勢反応、脊髄反射検査、脳神経検査、排尿の評価、および感覚検査のことを指します。これらの検査により、病変のおおよその位置を特定できます。なお、神経学的検査だけでは、原因までは判定できません。詳しくは下記のような検査内容を行います。
・意識状態
正常、傾眠(眠りがちだが、覚醒時は正常)、昏迷(強い刺激で覚醒するが、刺激なしでは眠ってしまう)、昏睡(強く刺激しても覚醒しない)。意識の異常は、大脳、間脳、脳幹の異常を示唆します。
・知性・行動
飼い主様の呼びかけ、手を叩くなど、周囲からの刺激に対する反応などを見ます。その場から動かない場合は、盲目を示唆します。今まで学習していた行動ができなくなったなど、飼い主様から伺う情報もとても重要です。知性・行動の異常は大脳の異常を示唆します。
・姿勢
静止時における頭部、体幹、四肢の状態を評価します。捻転斜頚(水平面に対して頭部を左右のいずれかに傾ける。前庭病変を示唆)、頭部回旋(鼻先が体幹の左右いずれかを向いている。前庭病変を示唆)。常に横臥、伏臥、座位、頭部下垂などもあります。
・歩様
ゆっくりと歩かせ、歩く様子を観察します。歩行ができる状態の場合では、早足、駆け足の状態も観察します。
姿勢反応とは、起立状態を保つための反応のことです。下記の反応を評価します。
・固有位置感覚(固有知覚反応)
足先の甲を地面に着けさせ(ナックリングと呼びます)、動物が直ちに正常な位置に戻すことができるかを評価します。神経系異常の検出感度が高いです。
・触覚性踏み直り反応
動物を抱きかかえた状態で、動物の視覚を遮り、片足の甲を診察台の角などに触れさせ、動物が直ちに診察台の上に足を載せる(踏み直る)ことができるかを評価します。
・視覚性踏み直り反応
動物を抱きかかえた状態で、動物に診察台を視覚により確認させ、動物が直ちに片足を診察台の上に足を載せる(踏み直る)ことができるかを評価します。
・跳び直り反応
動物を片足のみで体重を支える様に保持し、外側あるいは内側に体軸を傾けた際に同時に跳び直り、姿勢を保持できるかを評価します。
・立ち直り反応
動物を横向きに寝かせ、直ちに起き上がることができるかを評価します。左右ともに評価します。
脊髄反射とは、脊髄にある反射中枢を介して起こる反射のことです。1回の打診に対して、1回の収縮が現れるのが正常です。それぞれの脊髄反射において脊髄分節および神経が異なるため、脊髄反射が低下または消失している際には、該当する脊髄分節や神経に異常があることが推測されます。このことにより、病変部位の特定が可能となります。評価する反射には下記のようなものがあります。
・膝蓋腱反射
膝蓋腱反射は動物を横に寝かせ、膝関節を軽く屈曲させた状態で膝蓋靭帯を確認して打診槌で軽く1回叩きます。正常な場合は、大腿四頭筋が収縮し、膝関節が1回伸展します。
・屈曲・(ひっこめ)反射
前足および後ろ足で行います。動物を横に寝かせ、四肢を軽く伸展させて足先を軽くつまみます。正常であれば各関節が屈曲する。
・会陰・肛門反射
会陰部あるいは肛門を鉗子(かんし)などで軽く刺激し、肛門括約筋の収縮、尾の屈曲を観察します。
・橈側手根伸筋反射
横に寝かせ、手根関節を軽く屈曲させた状態にし、橈側手根伸筋の筋腹を打診槌で軽く叩きます。正常であれば手根関節が軽く伸展します。
・皮筋反射
動物を起立させて、身体の中央から少し離れたの左右の皮膚を鉗子で軽くつまみます。正常であれば、左右それぞれの体幹皮筋が収縮します。通常、脊髄では皮筋反射が出現した部位からおよそ3椎体前までの範囲に病変が存在します。
脳神経検査は、脳神経の機能を評価する検査です。脳神経検査では細かいな外貌や反応の違いなど、微小な左右差を見つける必要があります。
・顔面の対称性
顔面筋の萎縮、腫脹および左右の対称性、いわゆる「ゆ がみ」を観察します。
・眼瞼反射
内眼角(目頭)を触り、瞬きするかを観察します。
・角膜反射
角膜に軽く触れた際に眼球が尾側に引っ込み、瞬きするかを評価します。
・威嚇まばたき反応
動物の目の前に手をかざして瞬きをするかを評価します。
・瞳孔の対称性
瞳孔の大きさと左右対称性を観察します。
・斜視
眼瞼裂に対する眼球の変位を観察します。
・眼振
眼球のリズミカルな不随意運動の有無を評価します。
・頭位変換誘発性斜視・眼振
動物の頭部を突然変位させた際に正常位では観察されなかった斜視や眼振が生ずることがあるため、体位を変えた際の斜視・眼振を確認します。
・生理的眼振
動物の頭部を一定方向にゆっくりと動かすと、正常な状態では頭部を動かした方向に眼球もついてくるため、その反応を評価します。
・対光反射
一方の眼球に光を当てて両眼ともに縮瞳(瞳孔が小さく縮むこと)が起きるかを観察します。
・顔面の感覚(三叉神経→前脳)
動物の上顎もしくは下顎の犬歯付近の皮膚を鉗子で軽くつまんで反応を観察します。
・舌の動き・対称性
舌の位置や萎縮の有無、舌の動きを観察します。
・飲み込み
嚥下(飲み込み)が行えるかを評価します。異常があれば、「むせる」、「こぼす」などの症状が確認されます。
屈曲反射、皮筋反射の検査時における犬の反応を確認します。通常の状態であれば、動物が痛みを感じていれば、「刺激を嫌がる」、「鳴く」などの明らかな反応を見せます。
・表在痛覚
皮膚における痛覚の反応を「表在痛覚」といいます。
・深部痛覚
四肢において表在痛覚が認められない場合に限り、爪の根元を鉗子ではさみ(皮膚ではなく骨に対して刺激を加える)動物の反応を観察します。骨に対する反応(痛覚)を「深部痛覚」という。
・会陰・肛門反射
会陰部あるいは肛門を鉗子(かんし)などで軽く刺激し、肛門括約筋の収縮、尾の屈曲を観察します。
・知覚過敏
脊椎の知覚過敏を評価します。頚部では首をゆっくりと左右および上下に曲げてみて反応を確認します。痛みがない場合には容易に頚部を屈曲できるが、痛みがある場合には抵抗を感じます。
排尿機能の評価では、飼い主様からの報告が有用です。自発性排尿があるか、尿漏れがあるかを伺います。診察時には膀胱の触診により、拡張、弛緩、緊張性を検査します。また、膀胱を圧迫して排尿の状態を把握します。さらに尿検査も行い、膀胱炎の有無も確認します。
椎間板ヘルニアの手術では、脊髄を圧迫する脊椎の組織を削り、物理的に取り出すことになります。そのため、まずは病巣部の位置や圧迫度合いを正確に知ることが必要です。これまでのレントゲン検査では原因部位の特定は難しいため、CTで原因部位および状態を確認して手術を行います。圧迫部位をより詳しく特定できるため、術創や削る骨の大きさも小さくて済み、短時間で円滑に進めることができます。
MRIは、神経や血管、腫瘍などの軟部組織を描出することに優れているため、椎間板ヘルニアを初めとする脳神経疾患を診断する上で極めて有用な検査方法です。軟部組織である脊髄そのものを描出することが出来るため、脊髄の状態(病変)を正確に把握することが出来ます。椎間板ヘルニアを正確に診断するためにはMRI検査は必須です。CT検査とMRI検査を両方行うためには、いずれの検査機器も完備している施設を選びましょう。そうすることで麻酔が一度で済み、動物への身体への負担を軽減できます。
Group OF ONE for Animals
東京で唯一のONE for Animalsグループです。院内にはCTを整え、千葉院と連携を取りながら治療にあたっています。
東京都港区芝2丁目29-12-1F
TEL:03-6453-9014
院長:中條 哲也
リハビリ専門の獣医師(CCRP保有)がセンター長を務める、プール付きのリハビリ特化型施設です。早期回復のサポートを行います。
東京都目黒区柿の木坂1-16-8
TEL:03-6459-5914
センター長:岸 陽子
横浜スタジアム傍のCTを備えたセンター。手術を日々実施しており、手術までの日数が短いのが特徴です。
神奈川県横浜市中区太田町1丁目7−1
TEL:045-305-4014
センター長:森 淳和