TPLO法とは、日本語で「脛骨高平部水平骨切り術」と呼ばれる、前十字靭帯断裂の際に実施される、膝関節の安定を目的とした手術です。膝関節の安定を目的とした手術には、主に下記の2つの方法が存在します。
A、人工靭帯(人工的な丈夫な紐)を用いる方法
B、脛骨の角度を調整する方法
Aはファイバーワイヤーなどの丈夫な紐を、切れてしまった前十字靭帯の代替の機能を担わせるものです。どのように紐を通すのかによって複数の方法が考案されています。この方法は「B、脛骨の角度を調整する方法」に比べ、手術時間が短くて済むメリットがありますが、術後すぐは関節の可動域の制限が起きがり、大型犬の場合にはゆるみが生じたりすることもあり、症状の改善までに時間がかかる場合があります。また、人工靭帯が切れてしまうリスクもあります。
当院ではワンちゃんの状態を判断したうえで、この方法を実施することもあります。Bの「脛骨の角度を調整する方法」の代表的なものが「TPLO法」です。脛骨の角度を調整する方法にはTPLO法以外にもいくつか方法が考案されていますが、TPLO法は術後の経過についても安定していることが多くの発表から裏付けられており、現に世界中で多く実施されています。なお、TPLOとはTibial Plateau Leveling Osteotomyの各単語の頭文字を取ったものです。
TPLO法が生み出される以前は関節内法や関節外法が多く用いられていました。しかし1993年に世界的に有名な獣医外科の第一人者Slocumらによって、これまでの「靭帯を補完・置換する」目的から「関節の安定をもたらす」目的であるTPLO法が考案されました。手術の目的が「関節の安定」に変わったことは当時非常に画期的でした。
TPLO法が考案されて以降、現在に至るまで米国を中心としておよそ30年もの歴史があり、当初は大型犬へ応用されていましたが、現在では小型犬や猫にも広く行われています。TPLO法を用いた術後経過に関する報告が世界中でなされており、現在のところ最も成績の良い治療法とされています。
手術には特別な器具とトレーニングが必要ですが、関節外安定化術よりも多くの点で優れており、TPLO法には術後早期の回復が得られること、術後の機能回復がより良好であること、手術後の骨関節炎の進行がより軽度であること、手術後の半月板損傷の発生率が低いなどのメリットがあります。
これらのことから、近年では国内外を問わず、前十字靭帯断裂におけるもっとも有効な手術方法として考えられています。
TPLO法では脛骨の形状を変形(回転)させることで、歩行等により発生する膝関節への力の方向を変えます。そのことにより、前十字靱帯断裂あるいは前十字靱帯機能不全により発生する膝関節の前方へのズレ・ねじれ圧力を中和し膝関節を安定化させます。
このイラストのように、前十字靭帯が断裂してしまうと圧力で脛骨が前方へせり出してしまいます。そこで脛骨の斜面の角度をより緩やかにすることで、脛骨がせりださないようになります。事前のレントゲン検査の際に、脛骨のせり出しの状態や角度を確認し、手術の計画を立てます。
前十字靭帯損傷・断裂と診断され、TPLO法が適応となったワンちゃん(猫への適応例も)に対し、どのような流れで手術が行われるのか解説します。
適切に撮影されたレントゲン画像をもとに、脛骨上部の面に対する大腿骨の角度(脛骨高平部水平角、TPA※)を測定します。この角度は一般の犬であれば25度前後ありますが、それをTPLO法により、前方へのせり出す力を最も中和できると言われている6.5度前後へ強制します。
※垂直線Aは、脛骨顆間隆起の中心と距骨の中心部を結ぶ線。脛骨高平部の線Bは内側の脛骨高平部の頭側および尾側の辺縁を結ぶ線。TPAはA線に垂直な線とB線が交差する間の角度を表す。
※TPAは、正確には「顆間隆起と距骨滑車隆起の中心を結んだ線(脛骨長軸線)の垂線と脛骨内側顆の頭側端から尾側端に沿って引いた線(脛骨高平線)のなす角度」です。
関節鏡では、わずか数ミリ程度の穴を3箇所程度あけ、関節の状態を確認することができます。関節鏡を用いることで大きな切開が必要ないため、ワンちゃんへの体への負担が大きく軽減されます。通常の切開による膝関節内の評価では、関節の安定化に重要な役割を果たす「関節包」までも切開するため、術後の不安定性が生じるリスクがあります。
また、肉眼では関節内の状態の確認は難しいのですが、関節鏡を用いると高倍率で観察することができるため、肉眼での精査よりも正確に前十字靭帯や関節軟骨、半月板の状態を確認することができます。なお、当院では検査の際に、損傷を受けた前十字靭帯や半月板を取り除くことが可能です。
脛骨上部の骨切りの位置および骨切りのためのカーブ状になったブレードの大きさを確認し、切り隔てた骨通しをくっ付けるための適切な金属プレート(インプラント)を選択します。TPLO法は2.3キロほどの小型犬から50キロを超すような大型犬まで適応となりますが、骨の大きさに伴い、適切な器具を選択します。
脛骨の内側より切開を行い、脛骨を切ります。回転させる角度(移動距離)は、術前に測定したTPAと骨切りに使用するブレードから事前に決定しています。
切った脛骨を繋ぐために、インプラントを設置します。このインプラントは術後に取り除く場合と取り除かない場合があります。
最後に、皮膚を縫合して終了です。骨が結合するのは、ワンちゃんの骨の状態、安静状態が維持できていたかなどに大きく左右されますが、二ヶ月程度が1つの目安になります。
この機械にTPLO法用のブレードのアタッチメントを着けて利用します。先端のアタッチメントの変更により、様々な用途に利用ができます。骨に穴をあけたり、骨を切ったりする際に用います。TPLO法の際には、骨切りならびにロッキングプレートをネジで固定する際に使用します。
パワーツールに装着して使う骨切り用の歯です。TPLO法では脛骨を三日月(カーブ)状に切る必要があるため、このブレードも円形になっています。
骨を繋ぐことに特化した金属製のプレートです。一般的に骨折の際にロッキングプレートは用いられますが、それとは別にTPLO法に最適化されたロッキングプレートを用います。TPLO法を適応するワンちゃんの大きさは多種多様なため、プレートの大きさも豊富にあります。ロッキングプレートは、用途によりネジを入れる角度や本数などが異なり、優れた固定性を発揮します。
当院ではTPLO法の合併症は非常に少ないのですが、可能性として考えられる合併症は感染症、膝蓋靱帯炎、脛骨粗面の骨折、プレートの破綻、スクリューのルーズニング(ゆるみが出ること)、骨切部位の癒合遅延、後十字靭帯の断裂、半月板の損傷、不適切な手技などが挙げられます。なお、両足に前十字靭帯断裂が生じている際、同時に手術を行うと回復期間の延長に関与する可能性があるという報告があることから、片足ずつの手術(1、2ヶ月ほど空ける)を推奨しています。
当院ではこれまでに多数のTPLO法手術を行なっており、高い成功率や手術時間の大幅な短縮を報告しています。(脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)を実施した214関節に関する検討)
その中で50症例以上の経験をもつ術者は⼿術時間が顕著に短縮し、動物の⾝体への⿇酔による負担が減ることがわかっています。TPLO⼿術は⽐較的新しい⼿術であり⼿技に慣れた術者が⼿術を⾏なわないと、術後の合併症につながってしまうリスクがあります。病院選びの際には十分に実績があるところを選択されることをお勧めします。
Group OF ONE for Animals
東京で唯一のONE for Animalsグループです。院内にはCTを整え、千葉院と連携を取りながら治療にあたっています。
東京都港区芝2丁目29-12-1F
TEL:03-6453-9014
院長:中條 哲也
リハビリ専門の獣医師(CCRP保有)がセンター長を務める、プール付きのリハビリ特化型施設です。早期回復のサポートを行います。
東京都目黒区柿の木坂1-16-8
TEL:03-6459-5914
センター長:岸 陽子
横浜スタジアム傍のCTを備えたセンター。手術を日々実施しており、手術までの日数が短いのが特徴です。
神奈川県横浜市中区太田町1丁目7−1
TEL:045-305-4014
センター長:森 淳和